森村衣美のご遷宮へのいざない
Vol.1
伊勢神宮と神嘗祭

伊勢神宮は凛とした空気の気持ちの良いところだと感じます。私には特別な感覚はありませんが、気持ちの良いところだと感じる方も多いのではないでしょうか。「何事の おはしますかはしらねども かたじけなさに 涙こぼるる」と詠んだ西行法師に、同じ感覚を味わえたようで親しみをおぼえるほどです。
その伊勢神宮とは、どんなところなのでしょう。神社といえば、お祭り!ですが、伊勢神宮のお祭りといえば、お神輿や、笛や太鼓のにぎやかなお祭りではありません。主たる伊勢神宮のお祭りは、誰の目に触れることもなく、神職さんが、日々、神様に対してご奉仕するお祭りです。

ちんじゅの森がご遷宮が始まる8年前、平成17年から今年1月まで行っていた『彩・選・単フォーラム はじめてのご遷宮』の第1回と第3回にご出演いただいた、「元伊勢神宮禰宜の矢野憲一さんは、極端な言い方と前置きして、「伊勢神宮は、神嘗祭をご奉仕するお宮」であるとおっしゃいました。神嘗祭というお祭りをつつしんで執り行うお宮。神嘗祭とは、一年に一度執り行われる最も大切なお祭りで、お米の実りに感謝するお祭りです。伊勢神宮は神話と地続きです。神話をどう捉えるかという話は、別のところにあるのです。伊勢神宮は、瑞穂の国(お米の実る国という意味)で作りなさいと、お米をもたらしてくださった天照大御神(アマテラスオオミカミ)という神様をおまつりしています。神嘗祭で、毎年、その年に実った最初の稲穂をお供えし、お米の実りに感謝するのです。神嘗祭には新米のご飯をはじめ、30種類ものお供え物が用意され、午後10時と真夜中の2時に、神様にお供えされます。それに先立ち、たとえばお供え物を載せる台や敷物など、神様の身の回りの品々ができるだけ新しく調えられます。神様の身の回りのものを新しく清々しくすることで、神様に新たな大きな力を甦らせていただき、力を発揮してくださるようにと祈ります。

かつて神嘗祭に参列したことがありますが、この一連の儀礼が美しく、心動かされます。私が目にした神嘗祭は、夜の静寂の中、夜通し神様に感謝を捧げ、祈り続けるお祭りでした。夜のしじまに太鼓のドーン、ドーンという音が響くと、祭主さん、大宮司さん以下数十名の神職さんが進んでいらっしゃいます。雨を含んだ玉砂利をザッザッと踏みながら、こちらに近づいてくる音だけが響き、参列していたほとんどの方が自然と頭を下げてお迎えしました。目で見ることができるのはお祭りのほんの一部で、近くに寄ることはできませんが、そこにあったのは、夜の闇の色、松明の白みがかった橙色、お供え物を入れた唐櫃(からひつ)の白木の色、神職さんの白い装束、そして空間にただよう檜の香りと火の香り、そうしたシンプルな色調や香りや物音でした。その中で、神職さんが跪いて平伏して拝み、スーッと立ち上がって、また跪いて拝む。淡々と静かに繰り返します。この一連の儀礼を目の当たりにした時、目には見えない神様を感じずにはいられません。『彩・選・単フォーラム はじめてのご遷宮』の最終回で山折哲雄さんに伺った日本の神様の特徴です。神様は“感ずるもの”であり、“目に見えない”のです。
ご遷宮は、この神嘗祭の規模を大きくしたものです。神嘗祭は一年ごとに、ご遷宮は20年ごとに執り行われます。
“伊勢は神様と人の織りなす地に足着いた営みの時空間”であると感じます。毎月更新予定の当ブログから、その一端を感じてもらえたら嬉しいです。

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